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健康生き生き

vol.13

痴呆は病気か、老いのあらわれか(3)

大井 玄

  「痴呆は病気か老いの表現か」などという議論はひま人がやることやで、こっちはボケの親の面倒見てるんやんか、と立腹される方もおられるかも知れません。
 そういう人にとっては、記憶や思考の衰えを改善する薬の有無の方が当然関心事になります。したがって世に喧伝されているアリセプト(学名donepezil)が、「どんなに」良い薬であるかどうかが問題になります。アリセプトは、多くの方がご存知のように、脳の神経伝達物質の一つ、アセチルコリンを破壊する酵素(コリンエステラーゼ)の働きを抑える薬理作用があります。
 アリセプトについては多くの効果判定試験が行われていますが、初期から中期のアルツハイマー病患者の記憶や思考の衰えをしばらく遅らせる効果が認められる場合もあります。しかしこれは、「病気自体」の進行を止めるものではありません。
 さてアメリカには450万人のアルツハイマー病患者がおり、そのうち100万人がアリセプトを服用しているといわれます。当然一般大衆のこの薬に対する期待は非常なものがあります。しかし現実には、薬を出す医師たちの多くが、処方すべきかどうか迷っていることも事実です。
 ジョンズ・ホプキンス大学で今春開かれたパネルディスカッションには、専門家のみならず大勢の一般医師や保健関係者が集まりました。パネルのアルツハイマー研究者たちが薬の有効性についていろいろ議論したのですが、効果があるという明快な結論は出てこないのでした。その状況に業をにやした聴衆の一人である医師が、パネリスト達に対し、この薬を処方した方がよいのかよくないのかはっきり答えてもらいたいと問い詰めたとき、満場は爆笑につつまれました(注1)。一人の専門家は十人に一人効果があるので、6−8週投与してそれが見られないときには投与を中止すると答えました。次の人はもう少し歩留まりがよいといい、三番目は6ヶ月試みると云い、四番目の専門家は「あなたが欲しいような証拠はないでしょう」と悲観的でした。
 いずれにせよ、知力テストでは効果が見られても、実際生活で機能するには薬効が乏しいと医師は見ているようです。同大学のある老年科教授は、「一分間に果物の名を10個思い出せる代わりに11個思い出せるようになる。だけどそれは月に130ドル(1万4千円)払う価値があるかい?」と辛辣でした。
 しかし公平のために付け加えておかなければならないのは、会場でインタビューに応じたアルツハイマー患者や家族の大部分は、薬の服用は有益だったと答えたのです。
 同じ現象を見ていても、一方は「役立たない」、他方は「有益だ」というのですからむずかしいものです。既述の「クレタ人の嘘の矛盾」はここでも起こっています。次回はもう少し客観的な評価について話しましょう。

(注1)文献:Grady D: Doctors question value of Alzheimerユs drugs. International Herald Tribune, April 8, 2004



 

 

 





 
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