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健康生き生き

vol.14

薬は効くのか効かないのか

大井 玄

 「薬は効くのか効かないのか」だって? くだくだ訳のわからんことばかり書いていたが、ようやくこちらの聞きたいことを話し始めたではないか、と思っておられる方々にアリセプト《エーザイの研究所が開発した抗痴呆薬ー塩酸ドネベジル》の「現実的評価」をお伝えしましょう。
 この薬については、軽度から中程度のアルツハイマー病の人を注意深く選んで、いくつかの治験調査が行われてきました。それらは3〜12ヶ月に及ぶもので、いずれも記銘力、言葉の思い出し、図描き、物の同定といった「認知能力テスト」で効果があると報告されました。
 しかし「痴呆老人」の介護をされた方ならお判りにように、日常生活を営む上で、認知能力だけが必要なのではありません。立ったり歩いたり、ご飯を食べたり、トイレを使ったり、風呂に入ったり、自分の身のまわりを整理したり、急に怒ったりせず機嫌よくしていたり……つまり生活には、いろいろな行為をする能力《日常生活度》や安定した情緒が必要です。すこしばかり物覚えがよくなっても、こういう生活を実践する能力が衰えるならば、結局介護者がくたびれ果てて施設に入っていただくといった結果に終ります。したがって薬の効果を判定するためにはそういう生活機能での改善が求められます。
 また製薬会社が薬の効果を観察する際、できるだけ「純粋な病気」の持主を選ぶ必要が生じます。なぜなら薬の「純粋な効果」を観るためにはそれが求められるのです。しかしご承知のとおり、よわいも還暦を過ぎる頃には、多くの人が高血圧、糖尿病、がんなど「成人病」の類をもっているのが普通です。当然いろいろな薬を服用しています。つまり「純粋アルツハイマー病」などという症例は、現実には比較的少ないのだ、あるいは現実性が希薄だと申せましょう。
 以上の点を考慮して、現実の生活において混じってくる「不純さ」をも包含した調査がイギリスで行われました1)。
 それによれば、ふつうの市井に住む軽・中程度のアルツハイマー病の人565人を無作為に投与群(5mg)と偽薬《外見は治験薬と同じだが有効成分を含まないもの》群に分け、12週間後にもう一度(この時には486人に減っている)無作為に三つの群(それぞれ10mg、5mg、偽薬を投与)に分け二重盲検《実験中は被験者にも実験者にもどの群が何を投与されているかわからないようにする仕組》的に結果が出るまで追跡しました。結果の判定とは、まず症状が悪化して施設に入所せざるを得なくなった時点、あるいは日常生活度の衰えがある基準レベルまでに落ちた時点までの期間によって計ります。
 結果は、認知能力テストでは有意に投与群が優れていたものの、入所の時期、日常生活度の低下では差がない、というものでした。また、異常行動や精神症状の発現や、介護者の精神的負担においても差が認められませんでした。
 この調査を行った研究者たちは、アリセプトは認知能力テストでは効果があるものの、生活の実際においては費用に見合うだけの有効性はないと解釈しました。
 どうでしょうか。ある現象はある視点から見ると病気である、しかし別の視点からは自然の過程と見える、という判断の曖昧性は、この薬の効果判定においても成立しているのです。もし真面目にこの事実を考えるならば、医師は哲学者たらざるを得ません。

 文献1)AD2000 Collaborative Group, Long-term donepezil treatment (AD2000): randomized double-blind trial, Lancet 2004;363:2105-15



 

 

 





 
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