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健康生き生き

vol.20

「純粋痴呆」というかわいい人々(2)

大井 玄

 さて、他人迷惑な周辺症状を伴わない「純粋痴呆」と申し上げました。しかし「迷惑」がないといっても、まったく何の苦労も周囲にかけないということではありません。人生を始めたばかりの赤ちゃんは、どんなにかわいらしくても、やはり育ての苦労を親にかけます。人生の終りも同様です。
 今回は、八十五歳で認知障害が現れ、やがて寝たきりになったが、手厚い介護により九十六歳まで生きた方です。その間床ずれは一度もできておりません。
 大学で教えるような才媛でしたが、四十歳前に幼児三人をかかえて、夫に先立たれ、苦労しながら子どもたちを育てます。しかしその最後の十二年間は、やはり大学で教鞭をとる娘(現在私の患者でもあります)に大切にされながら幼くなっていく時期でした。
 育児日記をつけるお母さんは多いのですが、看護日誌がつけられる場合は比較的すくなく、しかもこんなに長期のものは見たことがありません。また物書きの手によるせいか、描写が克明かつ適確です。ユニークな観察記録として価値がたかいと思います。
 たとえば寝たきりになって数年後の某月某日の日記を以下そのまま載せますから、味わってみてください。

 「皆様(教会の友人たち五人、毎日交代で看護体制をつくっている?筆者注)に警告!
 母は『いい子さん』(良い子)の時と、『むず子さん』(むずかしい子)の時と、『いた子さん』(いたずらっ子)の時が、4対3対3くらいの割合であります。その変身(変心と言うべきか)の区切りは、睡眠が境界線になっています。『いた子さん』の時は面白い時が殆どですが、時としは昂じてとんでもないことを言うことがありますから、どうぞ吃驚なさらないようにご注意。『あなたバカだから…』とか『あなたドロボー…』とか、さも面白そうにニコニコ笑いながら言いつづける時があります。こちらが母が何を言っても受け入れるのを楽しんでいるのだと思います。適当に聞き流してください。
 『むず子さん』の時も同様です。言う侭に従うことが一番簡単な解決策です。ある日私がお小水をとってあげようとすると、『お小水しなさいって、林さん(誰だか分からない)から命令されたの?』と聞きました。そんな命令はないから安心してお出しなさいと言いますと、『わたしは命令されたと思ったけれど、違ったかしら。命令なしで勝手にいたしますからよろしいですかと林さんに電話して頂戴』と何回も言われました。でも適当にあしらっていますと、『いい加減な返事ばかりしないで、早く電話しなさいっ!』。そこで電話ごっこの始まり。空ダイヤルを押して、『もしもし林さんでいらっしゃいますか。オシッコするようにとのご命令がなくてもオシッコしてもよろしゆうございますか?…ああ、そうでございますか。わかりました。…ではこちらの好きなようにいたします。…はい。さようなら』
 電話をしたと言いますと、ニッコリ笑って『どうもありがとう』。以上が一例です。
 でも言うなりになれない時(例えば、引越しの準備をしろなどと言う時)は早く子守唄を歌うなり、聖歌のテープでもかけるなりして、ねんねさせることです。いい子さんの時はまことに問題なしなのですが…』

(美川漾子「おかあさま、大丈夫よー命の紅葉のとき」文芸社)

 哺乳に始まる子育ての苦労を経験した方ならうなずかれるでしょうが、九十になろうとする方が赤ちゃんと同様の気分(人格)変化を現しています。しかし、老人の場合は、過去の人生経験があり、言語能力を培ってきていますから、ニクタラシイと介護者が思うようなことを言ったりすることも良くあります。結局、認知症介護の秘訣は、愛情と忍耐と、すこしの工夫なのです。



 

 

 





 
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