＜囲碁 サークル＞
「私と囲碁」
平成24年9月5日
奥林 群司（Ｓ38法卒）
『プロローグ』
八月二十二日囲碁サークルの武林信男キャプテンから「私と囲碁」と題して随筆を書いてくれとメールが入った。前回の山田芳弘さんの記事を読んだが、これは含蓄のある素晴らしい物語で大変勉強になった。だが私は囲碁について語れる程強くないし、弱ったと思っていた。私の七十数年の人生を振り返ってみると、囲碁、将棋、ゴルフ、麻雀、玉突き、映画、カラオケと実に多くの趣味三昧の人生であった。人様に自慢できるものは何もない、よくぞまあこれだけ中途半端に遊んだものだ。しかし武ちゃんのご指名とあらばしかたがない。ひとつ囲碁について書いてみるかと筆をとった次第。お見苦しい点、お許しあれ。
『一間（いっけん）飛びに悪手無し』
昭和三十四年、関西学院大学法学部に入学した。平等院や宇治上神社と世界遺産が二つもある京都宇治に住んでいて、そこからの通学である。京阪電車やＪＲ（当時は国鉄であった）、阪急電車と乗り継ぎあのスパニッシュスタイルの素晴らしい大学へ、片道四時間近くかかった様に思う。流石に長時間の通学は永く続かず、大阪税関に勤める親父と豊中の公務員宿舎に弟と三人の男所帯が始まり、私の通学も一時間余りと助かった。
『二目（にもく）の頭は見ずハネヨ』
マンションの向いに阪大の教授が住んで居られ、碁を打ちによく見えていた。私はお茶を出す役で、横に座ってみているのであるがサッパリ判らなかった。二人は大層難しい顔をして打っている。その横で私も分からないなりに引き込まれてしまって、ヤカンの湯が煮えたぎり、底を抜いてしまったことがあった。幸い大事に至らなかったが。
『三線は勝線、二線は敗線』
親父は三段か四段だったと思う。よく新聞の切り抜きを持って黙々と碁を並べている姿を今でも思い出す。中々厳格な父で、公務員は公僕であると共に市民の模範で無ければならいと、いうのが口ぐせであった。私が社会人になり、六十歳を過ぎているにもかかわらず「群司勉強しとるか」。いつまでたっても親は親、平成十七年九十五歳で永眠した。
『切り違い一方を伸びよ』
昭和三十八年�蠱ぬ�商会に入社、会社に日本棋院関西本部の早瀬弘九段（当時六段、注：本年八月十二日、七十四歳で逝去）が出稽古に見えていた。会社の地下の六畳和室に碁盤五面を並べ、貸し座布団を揃えて待つ。ここでも私はお茶当番、最初は井目（せいもく）で教えてもらったが、すぐ六子でおしえてもらっていた様に思う。三番手直りであるが二勝は出来ても、中々三勝はさせてもらえなかった。
『ノゾキに撃がぬ馬鹿はない』
当社の囲碁教室に得意先のＳ硝子のＳ課長も通っておられ、年齢も近いこともあって良く打った。当時宿直制度があって、独身の私はよく先輩の分まで泊りをやった。そんなある日、件の彼が一升瓶を持ってやって来た。真夏のこととてステテコ一枚で夜通し碁を打ったことを覚えている。麻雀ではよくあることだが碁で徹夜は初めてである。お互い初段を目指して必死であった。
『取ろう取ろうは取られのもと』
昭和五十年頃香里園の社宅に住んでいた得意先のＭ物産の某部長が近くに住んでいて「月、ダルマ一本で碁を教えてやる」。当時サントリーウイスイーでダルマと云えば最高級品であった。彼曰く「奥林君な！碁やるんやったら三段以上にならんとあかんぜ、碁会所へ行った時三段以上やったら席主が持ってきた相手を見て、いやな奴やったら首を振れるのや。二段以下やったらそれが出来へんのや」、変な理屈もあったものである。その彼は数か月後に東京本店へ転勤になった。せめて一年でも習っておけば初段位にはなれただろうに残念であった。
『左右同形中央に手あり』
世の中何でも東京と云う風潮が出てきて得意先各社もそれまで、大阪支店で決めていた運賃折衝を本社物流部で決めるとなった。我が社も単なる出先機関であった東京出張所が重要な場所となってきた。ちょっと三年行って来いと云うことで東京転勤になった。昭和五十六年のことである。その時早瀬九段から選別にと初段の認定をして頂いた。初段はもらったが免状料三万円と同額を先生へ謝礼、ということで初段になったのは嬉しかったが高いものについた。
『石は二目（子）にして拾テョ』
花のお江戸でまづやったことは、囲碁、将棋のリーグ戦をやったこと。当時は麻雀が盛んで社内外共に大きな勝負をしていた。そこへ私が行って金のかからない囲碁、将棋を奨励したものであるから社員からずいぶん喜ばれた。よく得意先とも他流試合を行った。Ｍ鉱業セメントのＳ主幹（五段）を会社へ招いて教えてもらった。私は練習後彼と一緒に神田駅前で一杯やるのがたのしみであった。
『ハネにはツケヨ』
会社生活半世紀になるが色々とよくやったものだ。ゴルフもオフィシャル16までいったが最近は飛ばないわ、寄らないわで、スコア―80台など夢の話である。将棋は正式に習ったことが無いが、昔ファミコンのソフトで初段認定というのがあり、それに挑戦したら二段認定するときた、これ又金である。冗談半分に申請したら、中原誠や米長邦雄のサインの入った立派な免状がきた。東京へ出てきて三十数年、チョット三年が随分長くなった。東京で卒業してしまい今は顧問として毎日出勤している。同窓会のサークルには、囲碁サークル、将棋サークルに入っているが将棋の方が人数が少なく、勝負も早いのでそちらばかりである。囲碁サークルは一泊泊りの合宿が楽しみである。
『エピローグ』
私の現役時代の年賀状は、毎年その年の世の中の動きや、家族の成長の過程を書くことで年始の挨拶としてきた。ある年こんなことを年賀状で誓約したことがあった。
「今年は囲碁、将棋二段、玉突き二本、ゴルフハンデー20、色々な事に二を目指す」とそれぞれ達成は随分遅れたが全部実現で出来た。会社も副社長と云うＮｏ．2で退職した。思えば一応満足しなければならないのかも知れない。こらからは残された人生、ゆっくりと趣味を楽しみ、家族を愛し、母校を愛し、充実した生活を送りたいものである。
以上
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