【例会の概要】

   3月の三日会は聖路加国際病院の腎センター長・腎臓内科部長の中山昌明先生に身近な病気である腎臓病と透析についての最新の情報をお話しいただきました。医学は日々進歩し、先端的治療も行われています。知ることで気持ちが前向きにもなります。35名の皆様と改めて腎臓とはどんな臓器なのかを学び、病を得た時の対処法を教えていただきました。ご参加ありがとうございました。

腎臓の働き

 人間の体は常に老廃物をつくり続けていますが、腎臓は24時間濾過する処理を行い血液をきれいに保ってくれている臓器です。一個の腎臓の中には「ネフロン」(腎臓の基本的な機能単位)が100万個あり血液の成分を濾過しています。不要なものは尿になり必要なものは再利用します。1分間に血液中の100ccの水分の処理をしています。 

腎機能と死亡率の関係

腎機能が低下し、濾しとる量が減ると尿に蛋白もでます。この慢性腎臓病患者が1300万人以上います。原因は生活習慣に由来するものが大きな比重をもっています。臨床疫学研究として、アメリカで100万人のデータから糸球体の濾過率を、100%を正常として腎機能低下の追跡調査をした結果、それが死につながり、いろいろな病気を引き起こすことがわかりました。岩手県の山村のデータを東北大で解析したところ、腎機能の低下した人は死亡率が高いこと、たとえ症状が無くても腎機能が40%から70%の人は心臓病、脳卒中のリスクが高くなることが明らかにされています。このような疫学研究を基に、現在では世界的な基準として、腎機能が正常の60%未満となっている方は「慢性腎臓病」と診断されるようになっています。腎機能低下に伴う体内環境の変化によって、確かに心臓や脳血管が悪い影響を受けます。しかし、死亡や心臓病の増加に関しては腎機能の低下が一番の原因であるかについては異論もあります。東北大で行った検討では、糖尿病、高血圧といった生活習慣病が心臓、脳卒中、腎臓病の存在と関連していることから、生活習慣病が腎臓を含め全身の重要臓器に悪い影響を与える主要な要因であることが確認されています。つまり、生活習慣病にて慢性腎臓病になっている方は、その他の重要臓器もすでに傷んでいるということです。生活習慣を管理すれことで全身の状態はよくなることが期待されます。

腎機能の確認

 血糖と尿検査の数値から濾過量がわかります。60%未満は病気といわれています。30%になればほかの数値にも変化がでますが、症状がでるのは10%くらいになってからです。尿毒症老廃物を排泄できない状態で、全身に影響がでます。水が体内にたまり息苦しく脳にも影響がでるなど多岐に影響が及びます。こうなると透析治療に頼るしかありません。

腎臓の健康老化と病的老化

 機能が15%まで下がると1年半で半分くらいの人が透析になります。しかし、これは15年前のデータであり、最近では透析を必要とせずに安定して経過している患者さんも珍しくありません。これには、この5年間で進歩している薬物治療の効果も影響していると考えられます。昨年は新規の透析患者が減りました。腎臓は、慢性の障害の場合は再生しませんので、残ったネフロンを大事に使うことが治療の基本となります。このためには食事生活習慣を見直すことは重要です。ところで、年齢とともに腎機能は低下しますが(老化)、健康な老化か病的な老化を判断する必要があります。病的老化の方も治療にて健康な老化に戻すことも期待できます。高齢者の場合、たとえ腎機能が低下していても尿蛋白がなければ将来透析になる可能性は極めて低いです。このような方に蛋白質を制限するのは健康を損なう結果となります。果物、生野菜も適切にとることが大切です。具体的には、腎機能が40%保持されていれば大丈夫です。長寿の秘訣は、体力を落とさないこと、間違った食事制限で栄養不良になっては本末転倒です。

透析

 1960年に開発され、68年に一般的に透析をうけられるようになりました。いまでは国内では30万人以上の方が透析治療を受けています。透析患者の就業は生命予後にかかわります。働いていない人は死亡率が高く、働いている人は死亡率が低いというデータがあります。働くことが良い影響を与えるのです。透析患者は病人ではありません。透析さえすれば普通に生活ができます。

 腹膜透析は家庭で行います。日本での普及率が低いのは情報が提示されていないことが主な理由です。情報開示の方法にも問題がありました。従来は医師からの指示のみ、いまは双方向性でお互いに納得してすすめる方法になりつつあります。医療はエビデンスだけではうまくいきません。患者の気持ちをふまえてやっていくのが最近のながれです。自身の経験では、病院側のインフラ整備のほか、患者への説明やスタッフの教育をすることで腹膜透析は3割増えました。日本人は自己管理をしたくないというのは間違いです。

おわりに

 最後に高齢者は急に具合が悪くなることもあるので、自分の受けたい治療やうけたくない治療、自分の価値観など前もって考え、話し合うという「人生会議」の必要性が指摘されています。透析治療についても意思表示が必要です。医療の本質は利他的というところにあります。医療行為の本質を理解し、受けた側の思いもきちんと伝えることではじめていい医療が成立するのではないでしょうか。

【以下開催時のご案内の抜粋】

  2024年3月度例会は、現在日本には約1,300万人の慢性腎臓病の患者がいると言われ、透析患者も約35万人、今や国民病となっている慢性腎臓病について、先端的治療の第一線でご活躍されている聖路加国際大学 聖路加国際病院の中山昌明先生をお招きし、「医師も患者も誤解だらけの腎臓病と透析」と題してご講演を賜ることとなりました。

慢性腎臓病は上記のように頻度の高い国民病であるにも関わらず、その病態や治療について正しい知識が行き渡っておらず誤解も多いので、症状が出ないままに進行していくこともございます。また近年では、高血圧、糖尿病、高尿酸血症といった生活習慣病を放置することによって、70歳代になって透析に導入され、週3回の透析治療を受けざるを得ない患者さんも増加しております。

 そこで今回は、正しい腎臓病の知識を付けて頂く絶好の機会となりますので、万障お繰り合わせの上是非とも多数の皆様にご参加いただきたくご案内申し上げます。

日  時: 2024年3月2日(土曜日) 14時30分~15時45分 【14時開場】

場  所: 関西学院同窓会本部 銀座オフィス

東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階

アクセス: 都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分

会  費: 1,000円 (小ペットボトルの飲み物を用意いたします。)

講  師: 中山 昌明(なかやま まさあき)聖路加国際大学 聖路加国際病院 腎センター長・腎臓内科部長

1984年 東京慈恵会医科大学卒し、1993年 医学博士授与(東京慈恵医科大学)

2000年 東京慈恵会医科大学講師(内科)

2005年 東北大学大学院医学系研究科准教授(寄附講座)

2010年 福島県立医科大学教授(腎臓高血圧・糖尿病代謝内分泌内科講座)

2016年 東北大学・特任教授(東北大学病院共同研究部門)

2018年 聖路加国際大学 聖路加国際病院 腎センター長・腎臓内科部長、聖路加国際大学 研究教授

演 題 :「医師も患者も誤解だらけの腎臓病と透析」

                                                                                                                                                   以上