5月の例会は「旅の医学」のタイトルで医務官経験も含め開発途上国での医療支援を続けてこられた医師の荻原理江様のご体験を通して、私たちが海外旅行をするときの注意ポイントを教えていただきました。コロナの扱いも変わり、銀座オフィスには39名の皆さまにご参加いただきました。ありがとうございました。 

【ご講演の概要】 

山好き、海外志向

 荻原様は昭和大学の医学部をご卒業で、在学中に白馬岳の診療所を手伝ったのがきっかけで山好きになられました。高校生の時に行った香港で海外への憧れが強くなり、海外で働きたいという夢も膨らみました。卒業後自治医大で働いているときに、山好き、海外志向にぴったりのJICAのネパールでの麻酔科医師の募集に応じ、ネパールで麻酔の指導と救急医療の指導をされました。当時のネパールには医師を養成する機関がなかったのですが、日本のODAの尽力で留学することなくネパールで医師の養成ができることになりました。海外で働くにしても麻酔をかけて治療が受けられるのは富裕層だけです。もっと途上国での公衆衛生を学ぶためにロンドン大学熱帯医学大学院へ留学。公衆衛生の知識を生かし、2年後エジプト保健省でのアドバイザー、その後の3カ国での医務官体験などリアルな興味深い体験をうかがいました。 

高山病の怖さの症例

 高山病は処置を誤ると命に関わるこわい病気であると事例を通して教えていただきました。旅行のときは医療保険を、できれば日本への移送付きの保険に加入することをおすすめするとのことです。

ケース1

 南米への個人旅行の折、3840mのマチュピチュのホテルで別ツアーの70代の女性がチアノーゼを起こしたので、酸素投与をしたことで持ち直し、次の旅行地は高度の低いところなので安心していた。ツアーコンダクターは高山病の知識もなくスペイン語も話せなかった。高山病の処置は酸素投与と高度を下がること。念のため帰国後連絡をとったところ発症後1か月間の記憶がまだらで脳浮腫の病態が続いていたことが判明した。

ケース2

 医務官としてボリビアで勤務中のこと。ボリビアには標高3700mのところにウユニ塩湖がある。69歳の男性が高山病を発症し、下山の警告を無視し、その後昏睡したため救急ヘリで搬送されたが肝移植のため免疫抑制剤を飲んでいたため敗血症を発症。保険会社と家族の意見が折り合わなかったため、日本に移送せずサンチアゴで治療したが死亡。保険会社に病歴を申告していなかった。

ケース3

 25歳の男性のバックパッカーが南米を旅行中、バスの転落事故で胸椎の圧迫骨折の重傷を負った。入院時に治療費の支払いを了解したにもかかわらず、翌日治療費が高い、支払えないと言い出しそのまま退院し、旅行を継続した。旅行保険には加入していない。

ケース4

 35歳の男性がラオスのビエンチャンで発症。旅行保険には未加入。日本から父親がきて1日30万円の入院費その他を支払い、タイ国境の病院に移送し、結局日本人の医師がつきそう制度を利用してバンコクから帰国。すべての費用に800万円ほどかかった。 

 最後にダイヤモンド社から出版された『旅するドクター』の紹介がありました。海外の医療事情、現地で購入できる薬、救急措置の知識、持っていく健康便利グッズなどが掲載された海外旅行のなによりのガイドブックです。マラリアなどは帰国後に発症しても適切な治療がどこでも受けられるというわけにはいきません。事前に本を読んだりトラベルメディカルクリニックなどを受診しで知識をもつことも必要です。うっかり高所に旅行したけれど無事でよかったという感想も何人もの方からいただきました。高山病のリスクグループは高所に普通の旅行気分で出かける旅行者だそうです。

 せっかくの海外旅行を安全に楽しく過ごすためには、準備も旅行保険も必要なことを忘れないようにしなければいけないことが身に染みました。ご講演ありがとうございました。

【以下開催時のご案内抜粋】

三日月会5月度例会は、元外務省医務官の荻原理江氏をお迎えし、ご自身の足跡をたどりながら旅行医学に関してご講演を賜ります。旅行医学とは、たとえば感染症、高山病、潜水病、エコノミークラス症候群、、、、など旅行に関する医療全般を指します。

 萩原氏と旅行医学との出会いは、1990年ネパールのJICAトリブバン大学医学教育プロジェクトに参画した際に、重症な高山病に罹患した20歳の女子大学生を治療したのがきっかけと伺っています。日本では高山病というと軽症なイメージで、命に危険があるとは思われていません。マラリアに対してもしかりです。

 そこで、旅行医学に対する知識が不足している日本人向けに旅行医学に関する啓もう活動の必要性を感じ、「地球の歩き方・旅のドクター」を執筆されました。その本の内容もご紹介いただき、皆様の役に立つお話を拝聴できると伺っております。

 是非とも多数の皆様のご参加を賜わりますようご案内申し上げます。

                                記

日  時:2023年5月13日(土曜日)14時30分~15時45分【14時開場】

場  所:関西学院同窓会本部 銀座オフィス

東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階

アクセス:都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分

会  費 :1,000円 (小ペットボトルの飲み物を用意いたします。)

講  師 : 荻原理江氏  元外務省医務官

 1980年昭和大学医学部卒。自治医科大学付属病院で2年間眼科研修、その後8年間麻酔科研修をし麻酔科指導医を取得。

 1990年よりJICAネパールトリブバン大学医学教育プロジェクトで2年間麻酔の指導。

 1993年より1年間ロンドン大学熱帯医学大学院にてMaster of Public Health in developing Countriesを取得。

 1997年より2年間、JICAエジプト保健省アドバイザーとして勤務。

 2000年より外務省医務官として、マダガスカル、ボリビア、オーストリア勤務。

 2009年より2013年までの外務省勤務(日本)、2014年よりラオス、ウラジオストク(ロシア),日本

 2019年にチュニジア勤務を最後に、2020年外務省退官。

タイトル:「 旅の医学」