2019年6月度例会は東京交響楽団の首席チェロ奏者を12年続けておられる西谷牧人氏にチェロの演奏とチェロという楽器と音楽の持つ力についてお話しいただきました。83名のご参加の皆様には至福のひとときを味わっていただきました。ご参加ありがとうございました。 

 チェロは300年ほど前に誕生してからほとんど変わっていない楽器です。まず1曲目はバッハの「無伴奏チェロ組曲」第一番を全曲。1720年頃の作品です。300年前の曲も今できた曲も弾けるのが楽器のすばらしいところです。 時空を超え歴史も国境も越えられる のが音楽です。この曲はト長調で6つの楽章から成り立っています。バッハは敬虔なクリスチャンでしたが作品には舞曲も多くあります。この曲もバロックダンスの舞曲でテンポのちがう3拍子と4拍子の6つの組曲です。 

 バッハの「無伴奏チェロ組曲」 演奏 

 次は西谷氏が去年作られた「『牧人ひつじを』の主題によるパラフレーズ」です。現代音楽は理解しにくい人も多いのですが、現代音楽には 100年から150年前に作曲されたものもあります。今では逆に綺麗な音楽を書く作曲家も増えてきました。昔は、作曲家は自分で書いて自分で演奏していました。それがいつか演奏家と作曲家は分業になりましたが、今回、西谷氏はご自分の作品をご自身で演奏されました。この曲は「まきびとひつじを」というクリスマスの賛美歌の変奏曲です。ご自分の名前の由来になった曲でもあります。牧歌的なイントロではテーマから入り6種類の変奏曲で構成されています。変奏曲は、調やリズムなどを変えたり、譜面を逆から読んだり、上下を変えたりして作ります。それはバッハの頃から同じだそうです。最後にゆったりしたコラールがありアーメンでおわります。

「『牧人ひつじを』の主題によるパラフレーズ」 演奏 

 チェロを表現するときによく使われるのが人の声に一番近い楽器という表現です。これには理由があって人の声は機械音のように同じ調子で出るのではなく揺らぎ、つまりビブラートがあります。チェロにもその揺らぎがあり何よりも音域が同じです。男性の一番低い声のCから女性の一番高いところまでがチェロの音域です。音域と音色で人間の声に一番近いと言われるのです。今日は実験して見ようということでバスは新月会の尾崎和義さん、ソプラノは三日月会スタッフ(谷口淑子)が協力して「浜辺の歌」の演奏がありました 。一番低いCが出る人は少ないのです。 

 チェロはオーケストラでは低音や高音を弾いたりリズムを奏でたり美味しいところでメロディが回ってきたりとオーケストラの中ではなんでも屋です。チェリストは性格もチェロに似るそうです。 

 次にチェロでこんなことができてしまうという曲を演奏されました。黛敏郎作曲の「無伴奏チェロのためのBUNRAKU」です。1960年の曲で31歳の時に大原美術館のために書かれました。チェロ1本の可能性を広げることに挑戦した曲で拍子木、太鼓、鼓、三味線、義太夫の唸り・・・。チェロのための日本人の曲というのは未だにこれがいちばんです。 

 また、震災のときに音楽はなにができるかという話もされました。震災のすぐ後に佐渡裕さんと音楽家として協力できることはなにかを話し合い、さだまさしさんからとにかく行動しましょうという意見で、コンサートを企画されました。現地の方からは食事や寝む場所からはもらえないものを音楽からもらったといっていただきました。楽器はただの道具にすぎませんが音楽という媒体を通してなにかを触発することはできます。それをどう感じるかは受け取る人の状況や気持ちによります。音楽家の想像を超える響き方をすることがあり、それが音楽の不思議な力だと言うのです。 

 また西谷さんは毎年長野県の養護学校に演奏に行かれます。反応できる子供のほか重度の子供たちもいて付き添いの方からこの子のこんな反応を見たことがないといわれます。なにかが届いているのでしょう。 

 チェリストには弾き続けていかなければなら大事な曲があります。「鳥の歌」(カザルス編曲)で平和の歌です。カザルスは20世紀を代表するチェロ奏者でカザルスから現在のチェロの奏法と歴史が始まりました。スペインのカタルニア地方の出身です。カザルスホールは日本で最初の本格駅な室内楽のホールでしたが現在は閉鎖されています。カザルスは、平和の活動家としても有名で95歳の時に国連本部で世界中の首脳の前でスピーチをし、カタルニアでは鳥はピースピースと鳴くと語り、鳥の歌を演奏しました。これは、元々はカタルニア地方のクリスマスの歌です。それを平和の旋律として世界中に広めるのをライフワークにしていました。 

「鳥の歌」演奏 

 講演後チェロのエンドピンについての質問がありました。これができたのは1800年代終わり頃でそれまで両膝で挟んでいたため音の響きを止めていたが、以後安定感ができ高音に力が入るようになったそうです。鳥の歌を聴くために参加したという方からは、涙は嬉しい時に出るのではないかという演奏の感想があり、同時に日野原先生の本で読まれたエピソードが紹介されました。聖路加のホスピスでチェロ奏者の徳永健一郎さんが、どうしてもと最後にチェロの演奏をと希望され、ご家族の前で演奏されたそうです。 

温かい音色のチェロという楽器の魅力に気づかれた方も多かったのではないでしょうか。鳥の歌のメッセージもみなさんの心に届いたことでしょう。

 以下ご案内文】

2019年6月度例会は、東京交響楽団首席チェロ奏者西谷牧人(にしやまきと)氏をお招きし、下記要領にて「ウェンライトホール」で開催致します。

 チェロという楽器は弦楽器の中でも最も音域が広く、心地よく揺れるヴィブラートとも相まって「人の声に最も近い楽器」と言われています。ソロでは声のように(女声にも男声にもなれる)メロディーを歌い上げ、オーケストラなどのアンサンブルではベースやリズムを担当したり、幅広い表現が可能な「何でも屋」であるこの楽器の様々な表現を聴いて頂けるプログラムをご用意いただきました。この楽器の演奏を通してチェロの魅力だけではなく、音楽そのもの素晴らしさと不思議な力を感じて頂ければ幸いです。

演奏曲:

バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番/西谷牧人:「まきびとひつじを」の主題によるパラフレーズ/成田為三:浜辺の歌/黛敏郎:無伴奏チェロのためのBUNRAKU/カタロニア民謡(カザルス編)鳥の歌

 梅雨の季節、心にしみるチェロの演奏と講演で憩いのひとときをお過ごし頂きたく、是非とも多数の皆様のご出席を賜わりますようご案内申し上げます。

              記

日  時 :2019619日(水曜日)13301445    【1300開場】

場  所 :教文館書店ビル9階 「ウェンライトホール」 東京都中央区銀座4-5-1

      9階ホール入口前に「三日月会受付」(13:0013:25)を設置

アクセス  https://www.kyobunkwan.co.jp/map

会  費 :1000円 (小ペットボトルのお茶を用意しますが、軽食の提供はございません)

講  師 :西谷牧人(にしやまきと)氏  東京交響楽団首席チェロ奏者。

     松本に生まれ、奈良に育つ。5歳よりスズキメソードにてチェロを始める。東京藝術大学及び大学院修士課程を修了後、アメリカのインディアナ大学にて研鑽を積む。2005年留学を終えて帰国し、佐渡裕氏率いる兵庫芸術文化センター管弦楽団に創設メンバーとして在籍(~2008年)。2013年度青山音楽賞を受賞。更に20082016年までは東京藝術大学の非常勤講師。2015年、新たな音楽分野への挑戦として、東京交響楽団首席ヴァイオリン奏者の清水泰明氏とユニット「清水西谷(shimizunishiya)」を結成し、作曲、編曲、ライヴ活動も展開。

講演タイトル:『チェロの魅力、音楽の魅力』

*申込締切 2019613日(木)(お申込みは締切ました。   同窓会東京支部のkg_tokyo_soumu@yahoo.co.jpへのメール返信では、申込み受付出来ませんので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い申し上げます。

*お問合わせ先:同窓会銀座オフィス内東京支部  TEL 03-6260-6277

【次回予告】
7月はフェスタ2019のため例年どおり休会です。三日月会8月度例会は、823()Wine Conceptor杉本隆英氏をお招きして開催する予定です。                以上