12月の三日月会は「魚食のすすめ」というタイトルで「NPO海のくに・日本」「ウーマンズフォーラム魚」の副理事長佐藤安紀子氏をお招きしました。取材で関わって以来28年間、魚食が体にいいにも関わらず日本人は魚食から遠ざかり逆に世界はその価値に気づき始めていること、10年取り組んでおられるアフリカでのサカナの有効活用のプロジェクトについてお話しいただきました。12月も対面の三日月会はかなわずZOOMでの開催となり、32名の方にご参加いただきました。ありがとうございました。

 【ご講演の概要】 

日本の漁業とこどもたちへの啓蒙活動

 日本は周りを海にかこまれており、世界で6番目に広い海をもっています。これは離島が多いことからで南鳥島、沖ノ鳥島などが日本の島になったのは漁師さんが住みついていたおかげといえます。日本の海の水産資源が豊かなのは暖流と寒流がぶつかっていることや海が深いことなどによります。 

日本の魚食文化

 日本は世界有数の魚食の国。日本を含む北東アジア(日本。韓国・台湾)は肉の15倍の魚を食べています。ほかの地域は肉がほとんどです。アフリカでは肉も魚もあまり食べられていません。日本人はそのまま食べるだけではなくすり身加工や発酵の技でさらに多彩な味を楽しんでいます。食事は風土にあわせたものがよく、日本人には米と魚です。日本人の体には魚食が合っていて、それが「健康で長生き」を支えているのです。ところが家計調査によると平成18年(2007年)肉と魚の消費量が逆転してしまいました。一方世界は魚を見直し消費量が増えてきています。 

漁業の衰退

 日本の漁獲高は今や昭和50年のピーク時の半分です。当時はマイワシが400万トン獲れていました。獲る力があったのです。そしていま約2兆円もかけ147か国から魚を輸入しています。石油は4兆円ということからこの金額の大きさがわかります。他の国のマグロは缶詰向けですが、日本は生食するため鮮度の良いものを高く買っているともいえます。

 漁業就業者は50年前の6分の1、わずか15万人で、しかもそのうち60歳以上が5割をしめています。このような情報を共有し、どうすべきかを考えたことがウーマンズフォーラム魚、そして後継のNPO海のくに・日本の活動をスタートする大きな動機だったそうです。 

魚食の大切さを伝える

 この危機感を広く共有してもらおうと、魚食の大切さを伝える活動を開始しました。初めに取り組んだのはこどもたちへの教育活動です。

 『海彦クラブ』と名付け、こどもたちが漁村を学ぶことからスタート。日本には6000か所の漁村があるそうです。その一つ一つから漁師の奥さんに東京へ来てもらい、こどもたちに魚食や漁村の暮らしについて話してもらう「浜のかあさんと語ろう会」で、全国の浜と東京の小学校を結ぶことに取り組みました。富山県氷見市女良地区のかあさんは見事なブリを背負ってきて、中央区の子どもたちにブリの美味しい食べ方を教えてくれました。新潟県新潟市松浜のかあさんは大田区のこどもたちにサケの捌き方を教えてくれました。こども記者が漁村を訪ねる体験ツアーも企画し漁船に乗ったり定置網漁を見せてもらったり、ホームステイで漁村生活を体験する機会をつくりました。これらの活動はほかのこどもたちに報告するようになっています。「海とサカナのフォーラム」ではこどもたち自身が劇にして漁業の大切さを伝えました。

 次にこどもたちへの教育活動として『われは海の子』と題し、日本の国のかたちを知る機会をつくりました。日本の国境は海の上、見ることができません。そのかわり6852もの離島があります。東京の小学校で大学の地理の先生や離島の町長さんに授業をしてもらうことから始め、こどもたちの代表が実際に離島を訪ねたり、北方領土を知るために根室に行ったり、与那国島や海上保安部も取材してみんなに発表しました。こどもたちは8年間で18の離島をたずねました。

 世界と日本の関係を知るために選んだテーマはクジラです。クジラから世界が見えるという絵本も制作したそうです。「1000人でクジラ汁を食べる会」や「くじら川柳」を募集するなどのクジラを身近に感じてもらう活動も2016年から始めています。

 日本全国の海と魚をテーマにした本をつくり全国2万3000校の小学校に贈呈する活動も進行中です。 

西アフリカでの女性の支援プログラム

 西アフリカとの関わりは2011年から。モロッコからナミビアまでアフリカ沿岸の22か国の漁業大臣の組織があり、その下部組織として女性漁業者ネットワークができたことから、海を越えて講師を依頼されました。アフリカでの魚の保存は燻製と塩蔵のみ。最初のワークショップで日本のすり身を紹介したところ、その魔法の技術を習いたいとのことで年に一度のすり身ワークショップがはじまりました。

 日本では1993年から5年に一度(現在は3年に1度)、アフリカ開発会議が開催されています。日本とアフリカの関係を強化する重要な会議で、最終日に採択される横浜宣言は課題と解決策を示す道しるべとなっています。その横浜宣言に20年間、漁業は一切とりあげられていませんでした。このことを知り、なんとしても横浜宣言に漁業の大切さを入れたいと、2013年、セネガル・ギニア・コートジボアールから3人の漁村女性を招きました。そして、彼女たちにアフリカで漁業がどれほど大事かをアフリカ開発会議の会場で、またNHKラジオで話してもらいました。

 日本は5年前から農林水産物の輸出振興政策をとっています。2016年、農水省が公募していたアフリカへ調査に行く枠組みに応募し受諾することができたので、行き先をコートジボワールに決め、コールドチェーンの現状調査とすり身のワークショップを実施しました。コートジボアールの女性代表が22か国のなかで最も熱心だったことが大きな理由でした。14日間の滞在でしたが、アビジャンの漁業の現状を調査し、また50人の女性たちにすり身を教えることもできたので各方面で報告し、大きな反響がありました。

 2019年のアフリカ開発会議の際には、アメリカの国際食料研究所(IFPRI)が一緒にやりましょうと声をかけてくれて、2020年からアビジャンで大規模な活動ができるようになりました。新型コロナで1年遅れましたが、今年4月の全関係者会議に始まり、7~8月、9~10月と2回のアビジャンでのワークショップが実現しました。現地では栄養価も含めた魚の価値を伝え、すり身の作り方、すり身を生かしたハンバーク、スープなどへの応用、加工品販売のノウハウ、PR方法等を教えています。このように魚のすり身を生かした女性の自立支援プログラムを実施中です。 

 「お魚を食べることは大いなる海のいのちをいただくこと。海のくに・日本に感謝しましょう」が佐藤さんのしめくくりのことばでした。

 日本の漁業の現状に愕然としました。自分や家族のために魚食文化を大事にしたいですね。それが日本の漁業を救うことにもなるのならなおさらです。

 

【以下開催時のご案内文抜粋】

 三日月会12月度例会は、佐藤安紀子氏を講師にお招きし、日本の漁業の現状、健康長寿は魚食のおかげ、世界が驚く日本の魚食の知恵などについてお話しいただきます。

 佐藤氏はフジサンケイグループの出版社にて国際交流誌の編集や地域活性化事業に携わったのち、白石ユリ子氏が立ち上げた漁業と魚食文化の価値向上を目指す活動「ウーマンズフォーラム魚」(NPO海のくに・日本)に参加し、事務局を務めると同時に、日本全国6000か所の漁村の女性と首都圏の消費者が共に学び合う「浜のかあさんと語ろう会」、こどもたちへの「さかなの授業」「くじらの授業」を500回以上実施するとともに、出版活動も積極的に展開されています。海外に於いても、2021年4月からコートジボワール漁業省、米国の食料政策研究所(IFPRI)、海のくに・日本の3者で「すり身プロジェクト」を通して魚食を推進し、ご活躍でございます。

 下記要領にて本例会を開催したく、是非とも多数の皆様にご参加いただきますようご案内申し上げます。

                            記

日 時:2021年12月18日(土曜日)14時30分~15時45分

【14:15から三日月会例会に参加可能】

開催方法:Zoomソフトを使用するオンライン方式で行います

参加費:無料

講 師:佐藤安紀子(さとう・あきこ)氏         NPO海のくに・日本 副理事長・編集長。ウーマンズフォーラム魚 編集長。

 1993年、「ウーマンズフォーラム魚」の事務局を務める

 2010年、こどもたちへの海洋教育をメインにした「NPO海のくに・日本」を発足させ副理事長・編集長

 2011年、国立研究開発法人審議会委員

 2011年、西アフリカ22か国の漁業大臣会合(COMHAFAT)からの依頼により、22か国の女性ネットワーク会合(RAFEP)に白石理事長と共に出席し、日本の魚食の知恵や技術について講演したところ、日本の知恵を学びたいとの熱いラブコールを受け、アフリカ通いが始まる

 2015年7月~2019年6月、水産政策審議会委員

 2017年4月、内閣府地域活性化伝道師

 2020年、コートジボワール漁業省、米国の食料政策研究所(IFPRI)と海のくに・日本の3者で特別プログラムを企画。

タイトル:『魚食のススメ』