2022年1月新春例会にふさわしいテーマとして上方落語をとりあげました。講師は落語作家で1994年社卒のくまざわあかねさん。ラジオ深夜便の「上方落語を楽しむ」の案内人としてお馴染みです。内側から上方落語の世界をみせていただき、納得したり、感心したり、びっくりしたりの連続でした。ZOOMによるオンライン開催で50名もの皆様にご参加いただきました。ありがとうございました。

【ご講演の概要】

◎古典芸能研究部に所属

 あかねさんは、学生時代は古典芸能研究部に所属しておられました。

 「大阪では落語家さんにはテレビで接する機会が多かったです。特に落語好きというわけではなく高校時代は米朝師匠と枝雀師匠の独演会にいったことがあるだけでした。関学では歌舞伎好きの友人に誘われ古典芸能研究部に入部しました。ひたすら古典芸能を見に行くというクラブでしたが、関西での歌舞伎興行は年に2回、文楽も6月までないということでいちばん身近やったんが落語でした。当時は、定席はなかったけど、情報誌でさがすとお寺とかどこかでは、やってましたね。1989年ごろでそんなに落語は,はやってなくて。それでもどんどんはまっていって、出会ったのが師匠の小佐田定雄です。20歳ほど上の先輩で、枝雀師匠をはじめ多くの落語家さんの台本を書いてはりました。私も裏方として落語に関わっていきたいと思い、師匠のもとに入門して落語を書くようになりました」

◎落語の種類

3種類あるんです。新作は初めて書くもの。復活はそれまで滅んでいたものを今にあわせて仕立て直すリメーク、翻訳は東京の落語を大阪に合うように作りなおす。逆もあります。新作には今の時代を描いたものと擬古典。これは新しい時代劇をつくるようなものですね。まあ言うたらほとんど昔の話ですよね。かんてきを使ったり、みんな着物を着ている。私は団塊ジュニアなので落語に出てくるそんな小道具は使ったことも見たこともない。これでは説得力ないし、どうしたらいいんやろ。そこで始めたのが昭和10年の暮らしです」

◎昭和10年の暮らし体験

 今から20年前のことで、昭和10年の暮らしを4月から5月にかけての1ヶ月間、体験しました。落語の世界は江戸時代だけじゃなく長屋の暮らしなど明治や大正時代の暮らしやったりするんです。江戸は再現できないけどせめて落語の暮らしが残ってる町中でやりたい、それがクロスするのはぎりぎり昭和10年。ルールは、買い物は毎日行く、コンビニスーパーではなく対面販売で買う、銭湯に通う、毎日着物を着る、家電製品は使わないなどです。

 一人暮らしの物件探しは大変でしたが、谷町6丁目あたりは焼け残っていたのでそこの文化住宅をお借りしました。着物も着たことなくて学生時代のクラブの先輩に教えていただきました。火鉢は骨董屋で借りました。かんてきを室内に置いて怒られたりして。元炭屋の大家さんが火鉢の五徳のまわりにストーンヘンジのように置いていた炭を見て、あかんがなとスクラムに組んでくださいました。新聞連載も鉛筆手書きで郵送したり。原稿をとりにきてくださったこともありました。

 不便やったことは、冷蔵庫がないのでものが腐ること。いちごは次の日にかびがはえたので、食べものは食べきる量だけ買うことを実感しました。蚊、ハエなどの虫もくる。冷たいものが飲まれへんのにも困りました。

 人が急に家にくるのも楽しかったです。こんにちは、おまはんかいな、こっちへおはいりの世界です。いまはアポをとるのが基本。留守にするときは玄関の横にメモ帳をおきました。昔の人付き合いはこんな距離感やったのかなと実感しました。

 口数が増えたのも楽しかった。今は黙っていてもことが足りますが、買い物に行っても“すんません、これください”、お隣にも“ちょっと出かけます”、それ以後もその癖がついてエレベータに乗っても“暑いですね”というたり。

 着物が着れるようになってそれもうれしかった。寄席の下座のおねえさんに直してもらったりして、場数をふんでいるうちに着れるようになって、『クロワッサン』の着物コーナーにもとりあげていただいてそれもうれしかったです。

 家賃は大家さんのところに通帳をもって支払にいくのがおさめてるという感じがします。銀行の引き落としは取られると思うのに。

 米朝師匠に1年やってみたらどうやといわれましたがそれは無理です。夏にクーラーもないし、冬も火鉢だけは無理です。

 この生活を『落語的生活 ことはじめー大阪下町昭和10年体験記』という本にまとめたのですが、新聞記事になったり、テレビで放送されたりとあちこちで大きく取り上げられました。新聞の見出しにバンと”ええ落語、書きまっせ”。これにはびっくりしました。

 この暮らしをしてものの使い方もわかりましたが、口数が増えたのがいちばん大きなポイントでした。落語は会話の芸能ですから。落語とは違い、講談・講釈はナレーションの芸で、いつどこでなにをしたでストーリーをすすめていくんです」

◎落語の書き方   

 地の文をなるべく少なくし、会話で進めるというのが落語台本のポイントです。師匠からいわれたのは、演者さんを決めてから書きなさいということです。そのひとの口調にあわせて書く。話すスピードや声の高低でおもしろさも変わってきます。だれがしゃべるのかを考えて脳内をイタコ状態にしてパソコンに向かいます。師匠はよく知られている落語もその人にあわせて書き直し、”子はかすがい”をざこば師匠用とか南光師匠用とかに書き直されるんです。古典落語を何パターンも書き分けられるので、うちの師匠のことをみなさんすごいなと。その人のいいそうなギャグを入れたり。いわなさそうなこともポンと混ぜる。それが潜在意識を刺激し広がりをつくるんです。古典落語を聴きなさいというのもよく言われました」

◎東京と関西の落語の違い

 まずルーツが違います。江戸落語はインドアからスタートしてます。お座敷ですね。お客さんもお金を払って聴きたい人が行く。上方のスタートはアウトドアです。神社の境内や四条の河原とか。通りかかっている人にこんなおもしろいことあるよ、ということで派手で陽気で賑やかに呼び込む。じっくりと派手で陽気という違いがあるのですが、最近は個人的には差がなくなっているような気がします。笑点に参加される桂宮治さんは笑いにアグレッシブな方だし、上方でも1月の深夜便の福團治師匠は人情噺がお得意です」

◎最近の仕事

 自分の落語が歌舞伎になりました。鶴瓶師匠にきた山名家浦里はもともとタモリさんがブラタモリで聞かれた話を鶴瓶師匠に話し、落語にしてほしいというリクエストをされ、師匠と私が東京に打ち合わせに行きました。その後タモリさんから届いた吉原の資料を読み込んで書き上げたところ、気に入っていただき、その落語を勘九郎さんが歌舞伎にしたいといわれました。それで師匠が仕上げられ、『廓噺山名家浦里』小佐田定雄脚色、くまざわあかね原作で歌舞伎になりました。上演は2016年ですね。歌舞伎の演目の中にくまざわあかねという平仮名がまじりました。去年の9月には赤坂アクトシアターで再演もかないました。七之助さんの花魁が美しくて。また再演されるとうれしいののですが。

 いま、いろんな方とお仕事させていただいています。コロナが収束して安全な時がきたら『東京かわら版』で調べて落語会に足を運んでいただけたら嬉しいです。

 てなことで、取り急ぎのお話を終わります。ありがとうございました」

 昭和9年生まれの出席者からご自分の子供時代の話がきけて30年以上の世代を超えての交流ができたり、クラブの大先輩からは赤坂の歌舞伎の観劇の話などもでて楽しい三日月会でした。火鉢を知ってる世代は炭のストーンヘンジとスクラムに大笑いをしました。毎月第3金曜日のNHKラジオ深夜便午前1時からの「上方落語を楽しむ」はあかねさんのご担当です。1月21日の深夜(日付が変わって22日の午前1時)は、桂 福團治さんの登場です。

  あかねさんの今後のますますのご活躍を期待しています。

【以下開催時のご案内文抜粋】

 年頭を飾る三日月会1月度例会は、ラジオ深夜便「上方落語を楽しむ」の解説でおなじみのくまざわあかね氏を講師としてお招きし、我々にはなかなか窺い知ることのできない落語の世界についてお話しいただきます。

 くまざわさんは、関西学院大学在学中から古典芸能研究部に在籍し、歌舞伎と落語について研鑽を積み、卒業後、上方落語作家の小佐田定雄氏に師事し、2000年に国立演芸場主催「大衆芸能脚本コンクール」に「お父さんの一番モテた日」を応募、優秀賞を獲得し本格的な落語作家としてデビューされました。日本にお二人だけという落語作家の一人として、おおぜいの落語家さんに台本を提供し、歌舞伎や文楽、狂言などいろんな古典芸能に関する仕事にも取り組みご活躍でございます。

 今回は落語の台本の書き方のほか、上方落語界の今の状況や平成14年に体験された大阪下町の昭和10年の生活の体験などについての興味深いお話をきかせていただきます。

 つきましては本例会を下記要領にて開催したく、是非とも多数の皆様にご参加いただきますようご案内申し上げます。

                  記

日 時:2022年1月15日(土曜日)14時30分~15時45分

                【14:15から三日月会例会に参加可能】

開催方法:Zoomソフトを使用するオンライン方式で行います。

参加費:無料

講 師:くまざわ あかね氏  落語作家

1971年大阪市生まれ。関西学院大学社会学部卒業、落語作家の小佐田定雄に師事。2003年咲くやこの花賞文芸その他部門受賞。

2012年よりNHK『ラジオ深夜便』第三金曜「上方落語を楽しむ」コーナー解説を担当。

2016年8月 笑福亭鶴瓶師匠の依頼で書いた落語『山名屋浦里』が中村勘九郎・中村七之助出演の歌舞伎として上演される。

2017年2018年 Eテレ『にっぽんの芸能』に出演。

著書  『落語的生活ことはじめ~大阪下町・昭和十年体験記』(平凡社)。『きもの噺』 絵・長谷川義史 (ポプラ社)。

『七福神の大阪ツアー』 絵・あおきひろえ(ひさかたチャイルド)。

タイトル:『上方落語を、書く』