6月の三日月会は元十両の若天狼こと上河啓介さんをお招きし、「お相撲さんのセカンドキャリア~入門から引退、そしてセカンドステージへ~」と題してご講演いただきました。相撲に夢を託し入門した若者もいつか現実に直面し、その後の人生を模索することになります。そんなときはどういう選択肢があるのでしょうか。当日は26名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございました。 

【ご講演の概要】

 上河さんは北海道根室市のご出身です。15歳のときにはすでに身長181cm、体重99Kgという立派な体格で、相撲部屋への入門をすすめられ間垣部屋(元若三杉、 2代目若乃花)に入門されます。ご両親には引退後への不安がありましたが、大きい後援会があるからということで納得されました。 

まず相撲界の実情を話していただきました。

 相撲は完全な実力主義の世界、番付表をみると力は一目瞭然です。そのうち関取といわれるのは十両以上、約70名ほどです。関取には月給がでますが、それ以外の500名弱の幕下以下には月給はでません。ただ場所ごとに諸手当てはでます。すべての力士は毎場所勝ち越しをめざして戦います。番付の順位で天国と地獄というほどの差がでることもあります。 

1日のスケジュールについてもお話しいただきました。

 5時半に起床し、6時から12時までは稽古でその後は風呂、昼食、その後関取は自由時間になりますが、幕下以下は、食事後は昼寝を絶対にしなければならないそうです。体の回復と筋力増加のためです。その後に、掃除・ちゃんこ番が待っています。掃除は自分の住んでいる場所を全員でやります。 上河さんの時代はもっと厳しく夏は3時4時から稽古が始まったそうです。部屋によって力士の数が違うので、稽古の時間や内容も変わってきます。ちゃんこは鍋だけではなく自分たちで作った食事全部がちゃんこです。おもに鍋とおかずが1、2品で、食事は番付順に食べます。

 付き人になると関取の稽古の準備、稽古中も汗を拭いたり、水をつけたりし、風呂での世話も。ボディソープなどはない時代に上河さんは桶に泡をいっぱいつくったりしていたそうです。ちゃんこの給仕や独自の食事を準備したり。洗濯は特定の洗剤や柔軟剤、干し方なども指示通りにするとか。掃除、関取の自主トレの準備や手伝いをして自分も参加、夜のちゃんこの準備・給仕をした後も雑用があります。この付き人経験が介護サービスの仕事に役にたつのですね。 

入門して半年間は相撲教習所に通います。

 同期は140名でしたが、毎日だれかがいなくなり、人数はどんどん減っていきました。理由は相撲ではなく生活のキツさだったとか。上河さんももし相撲が好きで入ったのなら逃げ出していたということです。相撲界は1年経つと1年生が2年生になるわけではないし、年が下でも番付が上になれば立場が違うことになります。団体生活の中の一部として相撲があるというのが上河さんの解釈です。逃げだす人にもその後の人生やセカンドキャリアはあります。 

 20歳の時についに幕下に。

 そうなると細かい作業は、下のものにまかせ、ずいぶん楽になり自分の稽古に集中できるようになり、23歳で十両に上がり月給がでて手当てもついて、付き人も二人つき生活ががらっと変わりました。自分でしていたことも任せられるようになり、いままで見向きもしなかったマスコミも声をかけてくるようになります。ここで性格がかわる人もいますが、上川さんがバランスをとって生活をしておられました。 

そして骨折。番付は激しく上下します。

 幕下まで落ちてまた十両にもどったときに今度は膝の靭帯の損傷、序二段まで落ちてまた十両に復活されました。しかし33歳になられたとき体力的には無理だろうということで引退を決められました。 

ここから上川さんのセカンドキャリアです。

 16歳から相撲しか経験してこなかったのでなんの仕事の経験もなくなんの資格もない33歳ができあがっていたということです。パートをはじめるとそこから抜けられなくなりそうで結局そういう仕事はされませんでした。最終学歴は中卒なので引退後1年かけて勉強し高卒認定をとられました。そこへ地元の北海道の幼なじみから声がかかり介護の仕事で「シリウス」として起業することになります。先に引退した先輩の縁でデイサービスの手伝いや訪日外国人向けの相撲ショーの希望などもはいり「お相撲さんプロモーションズ」をつくりショーやテレビcm出演などをうけるようになりました。 

力士の引退後の職業というと・・・

 ご存知のように飲食店が多いです。引退間近になると稽古よりちゃんこ番にはいることが多くなるのもその原因かもしれません。

 後援会の方の会社にという話もありますが、勤めるということになると社長と社員というかたちになって、ちょっと違うなということで辞める人のケースが多いとか。力士はからだひとつで一発勝負という性格だし、勝ち負けがはっきりした世界で生きてきているので勤めるというのは難しいというのは理解できます。

 後輩は先輩に仕事ありますかと相談するのはなかなか難しいので、上河さんのその壁をくずし、やめたあともしっかり仕事をして、元気に楽しく暮らしていこうということで引退後のケアができる存在になれればということでセカンドキャリア推進協会をつくられました。 

相撲の将来を見据えての組織でもあるのですね。

 「それによって入門者も増えてくると思うんですよ。なにより親御さんも安心でしょう。ある親方によるとやはり家族からは引退後を聞かれるといわれていました。強くなればいいといっても現実問題として引退はかならずきます。私の同期は144名で相撲協会に残ったのは2名、関取になったのは10名です。

 相撲取りのセカンドキャリアをサポートしていくことで入門してくる力士を増やしていくことも目標になっています。これからの相撲業界に貢献できる存在になりたいとこれからも頑張っていこうと思っています」 

 お年寄りは相撲好きが多いので介護の仕事の場ではとてもよろこばれているそうです。上河さんはセカンドキャリア推進協会、シリウス(デイサービス事業、お相撲さんプロモーションズ)を運営しておられ、力士の相談にものっておられます。いつも楽しんでいる大相撲はこういうサポートにも支えられているのですね。

【以下開催時のご案内抜粋】

 三日月会6月度例会は、「力士セカンドキャリア推進協会」理事長の上河 啓介氏をお招きします。上河氏は現役時代の四股名を若天狼啓介(わかてんろう)として最高位十両2枚目まで昇進され、現在は、志半ばで引退した元力士を総合的に支援するためのスモプロ(お相撲さんプロモーションズ・相撲イベントの企画/運営)並びに、付き人経験を生かした介護ビジネスを展開する実業家としてご活躍されています。引退する力士は相撲の世界しか知らず、社会にスムーズに適応するのが難しい現実があります。上河氏ご自身の体験を通した、普段の相撲中継では伺い知れない相撲界と引退力士の支援についての興味深いお話しを拝聴したく存じます。 是非とも多数の皆様のご参加を賜わりますようご案内申し上げます。

                                記

日  時:2022年6月4日(土曜日)14時30分~15時45分【14時開場】

場  所:関西学院同窓会本部 銀座オフィス

東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階

アクセス:都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分

会  費 :1,000円 (小ペットボトルの飲み物を用意いたします。)

講  師 : 上河 啓介(かみかわ けいすけ)氏 一般社団法人力士セカンドキャリア推進協会理事長

1977年10月18日 北海道根室市出身。1993年3月 中学卒業と同時に大相撲の間垣部屋に入門。※間垣親方は2代目若乃花

2001年11月 十両昇進。2004年1月 左膝の大怪我。2005年1月 序二段まで陥落。2008年9月 十両復帰 ※序二段まで落ちた元十両力士の再十両昇進は、戦後では2例目 2011年4月 大相撲引退。2012年7月 代表取締役として株式会社シリウスを設立 デイサービス花咲オープン。2021年12月 デイサービス2号店をオープン。

大相撲時代の主な戦績

生涯成績:448勝406敗71休 勝率.525、現役在位:108場所

十両成績:136勝170敗24休 勝率.444、十両在位:22場所

タイトル :「お相撲さんのセカンドキャリア~入門から引退、そしてセカンドステージへ~」