4月の三日月会は、北海道大学名誉教授で国立研究開発法人物質・材料研究機構名誉フェローの魚崎浩平氏をお迎えして、「持続可能な社会における蓄電池と水素の役割と課題」というテーマでご講演をいただきました。

世界は地球温暖化という問題に直面しています。原因となる二酸化炭素の削減に重要な果たすことが期待されている蓄電池と水素について、その原理から、普及の現状、そして今後の課題について説明されました。難しいテーマに対して、皆様熱心に耳を傾けられました。24名のご参加ありがとうございました。 

【ご講演の概要】

なぜ蓄電池と水素が注目されているのか。

 産業革命後、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料が大量に使われ、大気中のCO2が増加し、地球の温度を上昇させた。その結果、気候変動や人々の生活に様々な悪影響が生じさせている。日本においても主要なエネルギー源は化石燃料であるが、近年太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電が増え、現在では発電量の約20%にもなっており、発電量の変動や需要と供給のバランスのため、エネルギー貯蔵が不可欠である。

   電池は、電気の池と書くが、電気を貯めているのではなく、エネルギーの高い物質から低い物質(例えばイオン化傾向の異なる2つの金属)への化学反応によって電気エネルギーを生み出している。電池には、一度しか使えない一次電池、充電すれば何度でも使える二次電池(蓄電池)、水素と酸素を反応させて電気を作る燃料電池がある。

   二次電池(蓄電池)において、現在最も広く用いられているのは、小型で高電圧を得られるリチウムイオン二次電池であり、携帯電話やノートパソコンが小型化して持ち歩けるようになったのも、テスラや日産リーフなどCO2を排出しない電気自動車の普及が急速に進んでいるのもリチウムイオン二次電池のおかげである。リチウムイオン二次電池の実用化には吉野彰さん達が貢献し、その功績に対して2019年ノーベル賞が授与されている。

   水を電気分解すると、水素と酸素が発生するが、その逆反応として水素と酸素を反応させて電気を発生させる装置が燃料電池である。酸素と水素が継続的に供給される限り、電気を作り続けることができる。

   燃料電池の電気が作られる反応式は  H2 + 1/2O2 →H2O +電気

であり、大気中に排出されるのは水である。都市ガス(メタン)から水素を作り、空気中の酸素と反応させて電気を作りだす家庭用燃料電池(エネファーム)が実用化されており、またトヨタが燃料電池自動車(ミライ)を販売している。

   燃料電池に用いられる酸素は空気中から取り込まれるが、燃料である水素は化石燃料の改質により製造されており、製造時にCO2が生じるという欠点がある。現在世界中で水の電気分解による水素製造に関する関心が高まっている。

   水の電気分解による水素製造と蓄電池を組み合わすことによって、自然エネルギーで作られた電気を短期的には蓄電池に、また長期的には水電解から水素を作るとで、電気を貯蔵出来ることになる。水素は燃料電池で電気に戻すことができる。水素は輸送にも向いており、エネルギーの貯蔵と移動が出来ることになる。

   地球温暖化の原因である空気中のCO2を削減するために、空気中のCO2を取り込んで、水や水素と反応させて燃料や化学物質に変換しようとする試みもあるが、直感的に素晴らしいものと感じてしまうが、1tのCO2を回収するのに2500tの空気を処理する必要があり、回収と変換に大きなエネルギーが必要である。結果として、CO2を減らすことができるのか、厳密に評価する必要がある。CO2や水は、非常に安定な物質であり、これらの反応にはかなりのエネルギーを必要とすることは、我々は理解しておかなければならない。

【あとがき】

   今、地球温暖化で様々な異変が世界中で起こっており、CO2削減は急務な課題ですが、生活に不可欠な電気や自動車からCO2の発生を抑えることは、かなり困難なことだと思ってきました。蓄電池と水素によって再生可能エネルギーで作られた電気が、水素に変えられることで電気の備蓄、輸送などが可能になり、CO2削減につながっていくというお話を聴かせていただき、未来に希望が持てました。これからも持続可能な社会について考え続けていきたいと思います。

【以下開催時のご案内抜粋】

 三日月会4月度例会は、魚崎 浩平氏をお招きし下記要領にてご講演いただきます。

   地球温暖化、低炭素、脱炭素、カーボンニュートラル、再生可能エネルギーなどの言葉を目にしない日はありませんが、内容は必ずしも正確に伝えられていません。講演では、まずこれらの意味とお互いの関係を概説していただきます。

   地球温暖化の要因とされる大気中の二酸化炭素を削減し、持続可能な社会を実現するためには再生可能(自然)エネルギーの大量導入が求められますが、自然エネルギーには本質的不安定性や需要と供給の時間的空間的ずれが存在し、短期・長期のエネルギー貯蔵が必要であり、蓄電池や水素が重要な役割を果たすことが期待され、また、多くの自動車から多く排出される二酸化炭素削減にも蓄電池(電気自動車)や水素(燃料電池車)が貢献します。蓄電池と水素利用の簡単な原理と現状、そして今後の課題と世界的研究開発動向についても説明していただけます。

   是非とも多数の皆様のご参加を賜わりますようご案内申し上げます。

                                記

日  時:2023年4月1日(土曜日)14時30分~15時45分【14時開場】

場  所:関西学院同窓会本部 銀座オフィス

東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階

アクセス:都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分

会  費 :1,000円 (小ペットボトルの飲み物を用意いたします。)

講  師 : 魚崎 浩平(うおさき こうへい)氏:北海道大学名誉教授

兵庫県神戸市出身。

1971年 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了、三菱油化(株)入社。

1974~ 1976年 フリンダース大学(豪)大学院博士課程留学、Ph. D.取得。

1978年 三菱油化(株)退社、オックスフォード大学無機化学研究所研究員(~1980)。

1980年北海道大学理学部化学科講師、同助教授、教授、学長補佐、触媒化学研究センター長を歴任。

2010年 北海道大学定年退職(名誉教授)。

2013年 国立開発研究法人物質・材料研究機構(略称NIMS) にて、フェローに就任。

国際ナノアーキテクトニク拠点主任研究者、同ナノ材料科学環境拠点長、

同エネルギー・環境材料研究拠点長を歴任。現在同理事長特別参与。

2013年 国立研究開発法人科学技術振興機構 (略称JST)先端的低炭素化技術開発 特別重点

技術領域 蓄電池(ALCA-SPRING)運営総括(PO)。

2022年 同研究開発戦略センター上席フェロー。

タイトル:持続可能な社会における蓄電池と水素の役割と課題