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<ペーパーバックス・ファン >

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Nevil Shute (1899-1961)

ネビル・シュートという作家をご存知でしょうか? 航空技師出身の英国作家で第一次大戦に応召、第二次大戦は予備役という体験から戦争を舞台の作品を多く出しています。戦後オーストラリアへ移住しアリス・スプリングスを舞台にした「アリスのような町」(A Town Like Alice) がありますが、有名なのはグレゴリー・ペックとエヴァ・ガードナー主演で映画化された「渚にて」(On the Beach) です。

古い作家なので本は英語もほとんど絶版なのですが、図書館で翻訳を見つけたらぜひ読んで欲しいのが "PASTORAL" (1944)です。邦題は分りませんが昔は原題に忠実なので「田園」の文字が入ってるのではないでしょうか? 若い軍人の男女が英国の美しい風景の中で出会う淡く短いロマンス作品で全体が何とも印象的な描きかたでした。また "Requiem For A Wren" (1955) は戦死した海軍の若い女性砲手を悼むテーマで、これも心に沁みる作品です。Wren という鳥(ミソサザイ)がいますが、ここでは英国女性海軍兵役 Women's Royal Naval Service の略称です。第1次、第2次大戦中女性は原則的には後方支援の非戦闘員でしたが、小説は砲手として天賦の才を持ち戦死した実在の女性をモデルにしたものです。Wrenは戦後解消され、後に男女差のない形で英国海軍にも女性は編入されています。

ネビル・シュートを始めて読んだのは1960年代です。洋書の店頭にぽつり、ぽつりでしたが、もともと人気があったのでしょう、ほとんどの作品はペーパーバックで買えました。大作はありませんが、どれも印象的な作品揃いでした。特に "PASTORAL" は後年のカズオ・イシグロ「日の名残り」(The Remains of the Day) に出て来る田園風景を思わせる描写でしたし、また"Requiem For A Wren" と雰囲気がそっくりの小説をケン・フォレットも書いています "JACKDAWS" (2001)(邦題「鴉よ闇に翔べ」戸田裕之訳)です。

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血筋 (Lineage)

家族のルーツを調べ家系図 (family tree)を作るという習慣は、何故かアメリカに多いようです。ヨーロッパは由緒正しい伝統的家系というのはザラですが、アメリカは植民地時代に英国王から派遣された支配階級の末裔(WASP - White Anglo-Saxon Protestant の中核) 以外はヨーロッパを食いつめ新世界に夢を託した移民がほとんどでした。つまり過去を捨てた人達でしたが、新天地を生き抜いて成功した裏には大きな犠牲と試練がありました。

貧しい移民の子孫が繁栄を迎え自分達のルーツ探しをするのは、失われた家族の歴史を取り戻そうとしているのでしょうか? 1620年12月メイフラワー号で到着した清教徒37人を含む移民102人のうち冬を越せたのは約半数という厳しさでした。ですから自分のルーツが清教徒につながる人はごくまれで、それを発見した人はすごく誇りにするそうです。

家柄・血筋にある種の敬意を払い関心を抱くのは、何もアメリカ人に限りませんが、他国にくらべその傾向が強いように思えるのは一種の国民性でしょうか? ダン・ブラウン「ダビンチ・コード」のテーマであるイエスの血脈は、無論アメリカのことではありませんが、そうした面への関心の強さが、あえて宗教上のタブーに踏み込ませたのかも知れません。ほかにも米国の女流作家エリザベス・コストバ (エール大学卒後ミシガン州立大学で美術史修士号取得の才女) が10年をかけて書いた異色歴史ミステリ「ヒストリアン」はドラキュラの血筋に至る女性が主人公です。

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「幸福の王子」(Oscar Wilde)

優しさ、思いやり (compassionate)、無償の愛の美しさを描いたオスカー・ワイルド名作の曾野綾子訳が出ています(2006/12刊/¥1,050)。「あとがき」に曾野さんは翻訳にあたって『ただ一行だけ私が意識的に変えたところがある』と断わり「聖書の世界では天国において神を讃美するということは、必ず神とともに永遠に生きることが前提となっている。そこをはっきりさせないと、神は自分をほめたたえてくれる人だけを天国に集めるのか、と思われてしまう」として、その個所は本来の意味に重きをおいた訳をつけたと言っています。さすがと思いました。

それは物語最後の文章で曾野綾子訳と原文は次ぎのとおりです。

神は言った「おまえはいいものを選んだ。私の天国の庭では、このツバメは永遠に歌い続けるだろうし、私の黄金の町で『幸福の王子』は、ずっと私と共にいるだろう。」

"Bring me the two most precious things in the city," said God to one of His Angels; and the Angel brought Him the leaden heart of the Happy Prince and the dead bird.
"You have rightly chosen," said God, "for in my garden of Paradise this little bird shall sing for evermore, and in my city of gold the Happy Prince shall praise me."
(Oscar Wilde "The Happy Prince", 1888)

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中世ヨーロッパ(2)
(宗教)
宗教が過度に政治に介入することの愚かさを、長い流血の歴史(200年続いた十字軍の正確な犠牲者数は分かりませんが、300年以上存在した宗教裁判は魔女狩りだけで500万人が殺されたという)を経験した西欧諸国が『政教分離』を近代政治の基本に置いているのは当然ですが、教育・学問の世界では今なお宗教の暗い影が残る一面があるようです。アメリカの半分近くの学校では「ダーウィンの進化論」を教えることを禁じられ、研究開発機関への宗教上の介入があるといった・・ダン・ブラウンの「天使と悪魔」には次の指摘があります。

"The church may not be burning scientists at the stake any more, but if you think they've released their reign over science, ask yourself why half the schools in your country are not allowed to teach evolution." Langdon realized Kohler was right. Just last week the Harvard School of Divinity had marched on the Biology Building, protesting the genetic engineering taking place in the graduate program.
(Dan Brown "Angels & Demons")

日本では宗教上の理由で教育が制約を受けたという話は聞きませんが、伝統的に政治による教育介入は強烈です。「学問の自由」というのは実態はともかく名目だけでも保障されるようになったのは第二次大戦後です。

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中世ヨーロッパ(1)
(政治)
中世はローマ・カトリック教会が政治に深く介入していた印象が強いのですが、キリスト教が公認されたのはローマ帝国衰亡期の313年(ミラノ勅令)のことで、それまでのキリスト教は迫害の歴史でした。それが帝政末期ローマ皇帝の権威低下を食い止め、人心掌握の手段として教会が利用されたのでした。しかし帝国は崩壊(476年)、その後約500年間は動乱の時代が続きます(暗黒の中世/Dark Middle Ages)。一方、勢力を伸ばし続けたローマ・カトリックの中枢部には一つの信念ができていました。それは帝政ローマ時代、皇帝に権力が集中することで体制の安定が得られたという経験則に立ち、動乱の原因が帝国分裂後に起こった王侯間の勢力拡張、権力闘争にあるという判断です。

ローマ・カトリックは法王に権限を集中することで機能していたことと合わせ、各国をひとつの信念・信条でまとめるのにキリスト教を前面に立てるべきだと考えたのでした(キリスト教国/Christendomの確立)。こうした教会主導による最大の政治行動が十字軍 (the Crusades) の派遣でしたが、結果は失敗に終りました。ただそうした軍事上の失敗もローマ・カトリックの権威にはさしたる影響を与えることなく時代は黄金の中世 (High Middle Ages) と重なり、法王の権威はさらに大きくなります。教会の政治介入が生みだした弊害と閉塞が打破されるのはルネッサンス以降近世に入ってからのことです。


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