HOME.CONTACT.PRIVACY POLICY.
K.G-TOKYO.COM Registry Member
入会はこちら LOGIN
What's K.G-TOKYO.COM
WHAT'S K.G-TOKYO.COM

<ペーパーバックス・ファン >

本欄ロゴのような「会報」を2001年から書いています。でも作家や小説の好みは人それぞれ違いますから「会報」も相手ごとに気に入って頂けそうなのをと勝手に選んで送っていました。女性には「日の名残り」や「ケン・フォレット」、競馬ファンはもちろん「ディック・フランシス」、クリスチャンとかだと「ペーパーバックと聖書」「ミゼレーレ」といったあんばいに・・で、結局だれに何を送ったんだか、分からなくなってしまいました。
世話役:安部隆雄(昭和34経卒)


外国人から見た日本(クライブ・カスラー "DRAGON" (1990) より)

* The Germans are still haunted by the holocaust,
but the Japanese have remained mostly unstained
by their atrocities.

* The politicians don't run Japan. The back-room
movers and shakers behind the bureaucracy pull
the reins.

外交辞令を抜きにした米国人の日本を見る目が上記のせりふに現われているようです。特に2番目を前後の記述に沿って解説風に訳しますと、

『日本の政治家はただの傀儡である。また表面上は高度に発達した官僚組織が権力を振るっているように見えるが、実はその裏には陰で操っている黒幕連中が常に存在する。こうした裏の人間は決して表に顔をさらすことはない。』

最初の引用個所は直接小説の筋には関係ないせりふですが、責任があいまいな日本社会の一面を痛烈に批判しています。日本人の伝統だった「いさぎよさ」がなくなったのは、明治維新 (the Meiji Restoration 1868) 以後に公的責任をとるシステムが崩壊したのと軌を一にしています。個人的にはともかく公衆道徳がなってないとかにもつながるのですが、日本人の多くに欠けるのが正義・公平 (fair and justice)の精神を大切にする心です。少なくとも外国人にはそう映る。その原因の一つは維新により幕藩体制が崩れた後も、それまで武士階級が何百年もかけ築いた官僚制度が温存されたことにある。将軍や藩主がいなくなったにもかかわらず権力構造は温存され、官僚は責任をとる必要がなくなった反面、それをチェックする機能が抜け落ちたままという構造上の欠陥が生まれたのでした。

倒幕・維新当時は体制・反体制にかかわらず当事者達が必死だったのは中国の清王朝末期に起ったような、列強介入による国の分裂という事態を何としてでも回避したいということでした。それが大義名分でしたが、結果的には武士階級が大きな権力を温存し官僚による中央集権がさらに強大化されました。そして軍国主義の台頭、第一次、第二次大戦を経て日本の官僚制度はますます完成度を高め共産主義、社会主義国でさえ果たし得なかった世界に例を見ない官僚支配構造ができ上がったのでした。

公的責任体制があいまいという、官僚にとって都合よく構築されたシステムは、一方でチェックがほとんど働かない構造を作り上げたのですが、それで官僚オールマイティが不動になったかといえば、実は黒幕や裏社会がつけこむ絶好の構図でもあったのでした。そのため重要なことはすべて秘密裏に決定され、表面はシャンシャンで取り繕うのが日常の社会になった。一般国民が参加できる民主的システムは定着しなかったといえば悲観的過ぎるかもしれませんが、ひと皮めくれば江戸時代からの「賄賂と談合の社会」が延々と続いているのが日本の実体という強烈な指摘が冒頭の引用です。

官僚が責任回避に走るのは、なにも日本に限らないというのも事実です。そのため欧米では重大な決裁は大統領や首相に即刻上げられるシステムになっており、政府主脳部はそれに対応した執行と責任を受け止める用意をしています。(例・米大統領直轄 National Security Council, etc.)日本はその点でもいいかげんではないでしょうか?
----------------------------------------------------------------------------

キャサリン・コールター "POINT BLANK" (2005)

作品が31年間で5冊という寡作にもかかわらず、ハンニバルで超売れっ子作家になったトマス・ハリスとは対照的に、年令は2年若いキャサリン・コールター(Catherine Coulter)は1978年デビュー以降28年間で60冊以上という超スピード作家です。代表的なロマンス小説以外にも歴史もの、FBI捜査官シリーズなど幅広いジャンルを手掛けており才能の豊さがうかがえます。(家系には小説家、画家、歌手、ピアニストなどがいるように才能は先天的なのでしょう。)しかし、丸善や紀伊国屋洋書部に彼女の小説はそれほど多く見かけません。新刊が売り切れると補充されない二流作家扱いのようです。(翻訳はどうか知りませんが、少なくとも洋書ペーパーバックの書棚では目立つ存在ではありません。)

FBI捜査官シリーズ最新の "Point Blank" を手にしたのが初めてでしたが読みやすくすっきりした文章で構成もなかなかのものです。もっと高く評価されても不思議でない作家ですが、ロマンス作家というイメージがあるいは邪魔をしてるのでしょうか? 10冊出された FBIシリーズの他の作品や歴史ものも読んでみたい気はするのですが、良く知らないのにわざわざ取り寄せてまで・・とちゅうちょしています。"Point Blank"は二つ別々のプロットが同時進行する複雑な構成なので、混乱させずに読ませるにはそれなりの力を要しますが無難に仕上げています。ロマンス作家のジャンルに固定してしまうのは惜しいですが、あえて言えば彼女の器用さ、スマートさ、女性らしい細やかで律儀な文体が、荒々しく個性的な男性ミステリ作家とくらべ印象をいくらか希薄にしているのかも知れません。

---------------------------------------------------------------------

SFの世界

ものの見方や考え方というのは多分に相対的な面があるようです。立場をかえてみるとか、思いきった発想の転換ができれば案外簡単なことが、同じ視点から動かないでいると、いつまでたっても本筋が見えてこない危険性があります。

自分の位置を簡単には変えられないというのも無論あります。極端なたとえですが、水中で居場所を一生固定された生物がいます。彼等から見れば頭上を自由に泳ぐ魚は、地上の我々でいえば鳥です。彼等の大気は水ですから、その外(空中)から飛んでくる鳥は宇宙人!てことになります。ばかなことを、原始的な生物と万物の霊長である人間を一緒くたにするのか、と怒られそうですが・・じゃあ人間は深宇宙の先まで観測できたって、それが "なんぼ" のものなんでしょう?満天に輝く星を高性能望遠鏡で宇宙の果てまで覗いたとしても、我々の目に見えるのは宇宙全質量のわずか1%だそうです。(99%は目に見えない闇!)

また、我々の世界は三次元ですからニュートン力学やアインシュタインの法則も三次元レベルの話です。でも宇宙が必ずしも三次元でないとしたら?残念ながら三次元から高次元空間への移動はできませんが、宇宙が三次元空間に限らないことは学者の間では周知のことです。異次元空間では三次元の法則はもちろん通用しない。もっとも、高次元世界の有無にかかわらず、ニュートン力学も光の速度近くになると破綻すると言われ、アインシュタインの法則もブラックホールや超ミクロの量子レベルでは通用しないことも知られています。

あなたが仮りに二次元の世界にいたとします。そこは平面が無限に続くだけで、縞模様になってんだか幾何学模様だかも識別できませんが、三次元から俯瞰すれば二次元の全体像はたちどころにわかります。同じように三次元から高次元は何も見えませんが、逆から見れば三次元世界は時空を超えて一目瞭然・・てことですね。時間の不可逆性とかタイムスリップが不可能というのは三次元世界の法則です。(多次元の概念は元々数学にあったものですが現在ではさらに広い分野で研究の対象になっています。例・ハーバード大学の女性物理学者リサ・ランドール博士のベスト・セラー "Warped Passages" 2005 参照)

昔から「SFの世界」にはこうした発想の飛躍があるのでした。SFはそのほとんどが絵空ごとかも知れませんが、千にひとつ、万にひとつ真実が隠されていたとしたら? 非科学的かどうか、SFの先駆者とされるヴェルネ(Jules Verne)やウエルズ(H.G. Wells) は学者でした。彼等のSF小説に現れた多くの夢がのちに現実化されています。手塚治虫の「火の鳥」は時空を超えた永遠の生命として描かれていますが、コンセプト的には高次元の生命体、100%エネルギーといった存在で、古くはスター・トレックにも形をかえて使われていました。浦島太郎や不老長寿の話なんかも俗物に姿をかえただけでルーツは同列と考えられます。つまり「時空を超えた永遠の生命」も古くは前史時代から認識され、それを知ってたのはドルイド神官(Druids/賢者)をはじめ、世界各地の哲学(学問全体)・宗教の先達でした。

普通の人には気づかない、見えないものがわかるのは囲碁・将棋をはじめ、どの世界の名手にもあてはまりますが、そうした人達には当然のようなことが常人には奇跡のように映ります。(およそ研究者というのは気の遠くなるような問題設定に取り組み、日夜格闘するのが当たり前といった・・天才と何とかは紙一重という人達ですから・・)

各地の伝説には時代とともにそうした奇跡が事実以上に膨らんで伝わった面もありますが、まったく根拠のない話とは限らず、事実がかくされているものが多いのではないでしょうか?自然を驚異的な観察力で注意深く洞察した天才・偉人には常人が思いもつかないところまで見透せたのでしょう。

高次元世界や五次元生命の考えもひとつには、すぐれた観察力・考察力から当然の帰結として導き出されたものかも知れません。ですから三次元世界からは証明不可能なこうしたテーマについても、現在最先端の理論物理学者達がチャレンジしているのではないでしょうか?


God has left signs and clues in the world, that by struggling we might come to understand things.        (C.J. Sansom "Dark Fire" 2004)

---------------------------------------------------------------

"Earth, Wind & Fire"

1970年代の米国人気バンド「アース・ウィンド・アンド・ファイア」をご存知でしょうか?ファンだとバンド名が占星術からとったものというのも有名な話ですが、あたくしなんざ「ヘェ、そうなの」で済ませてました。それが16世紀のヘンリーVIII世時代を背景にしたミステリ小説 "Dark Fire"(著者のC.J. Sansom は歴史学者・弁護士)を読んで謎が解けました。

西欧では古代ギリシャ時代から中世まで万物は土と空気と火と水(Earth, Air, Fire, Water)の四大元素から成るとされてたのですね。今では100をゆうに超える化学元素 (chemical elements)の発見は17世紀後半以降のことですから、錬金術(alchemy)が可能と思われたのも当然でした。 日本は中国伝来の「陰陽五行説(火水木金土)」でしたが似たような考えかたですね。(五行説の正式の読み順は木火土金水(もくかどこんすい)だそうですが。)

錬金術はなくなりましたが、古代の思想は占星術 (astrology)にしっかり残って "Earth, Wind & Fire" は水(Water) 以外をバンド名にしたのでした。(Wind = Air)

"And yet alchemy is part of natural science, the study of the world around us. God has left signs and clues in the world, that by struggling we might come to understand things: cure diseases, grow better crops, and the task of alchemy, like astrology and medicine for that matter, is to read those clues."
(C.J. Sansom "Dark Fire", 2004)
---------------------------------------------------------------------

フレミング/ヒギンズ/カスラー

イアン・フレミング、ジャック・ヒギンズ、クライブ・カスラーの作品はほとんど読みました。この3人は超人的なヒーローを世に送り有名になった、というより007にジャック・ヒギンズ、クライブ・カスラーが影響を受けたのですが、それぞれ強烈な印象を与えたベスト・セラー作家です。この中では一世代上のイアン・フレミングが冷戦時代のスパイ小説を非常にシンプルなスタイルで書き一世風靡したのですが、超新星なみの007シリーズ一本の作家でした。しかし彼の007人気は絶大で、本格的なスパイ小説の源流はジョン・ル・カレに譲るとしても、華やかなフィクションの持つ偉大な市場性の認識をいやがうえにも後進作家に植えつけたのでした。


イアン・フレミング (1908-1964) は典型的な英国上流階級の出身です。(貴族ではないので正確には中流階級と言うべきですが、富裕な銀行家の家柄です。)イートン校から名門兵学校サンドハースト(Royal Military Academy Sandhurst) に進み、更にスイスでドイツ語を学び、またフランス語を磨くためジュネーブ大学にも通っています。上流階級の趣味といえば乗馬、ゴルフが挙げられますが、イアン・ フレミングもゴルフの名手でした。第二次大戦中海軍情報局勤務の経験が後のジェームズ・ボンド シリーズの土台になっています。プロットは簡単ですが天性の文章力を駆使し、一点の迷いも曇りもない素晴らしい展開力で読者を魅了しました。


ジャック・ヒギンズ (1929/- ) の生い立ちはフレミングとは対照的です。ベルファースト生まれのハーフ・アイリッシュ。両親が離婚したため母親の生地ヨークシャーで育ち、中学卒業後15才で軍隊に入りドイツに3年間勤務。その後もあらゆる仕事をしながら赤貧洗うがごとき生活の中、苦学でロンドン大学を卒業。教職のかたわら小説を書き続けたのですが、ブレイクしたのは16年後36冊目の "The Eagle Has Landed" (1975)(鷲は舞い降りた)46才でした。普通の人間だと途中で挫折したでしょうが、若い頃からどん底生活で鍛えた精神と肉体はヤワでなかったのですね。外面はタフな主人公のジャック・ヒギンズ作品は、しかし悲しいまでのヒューマニズムに貫かれています。初期の主人公は破滅型で悲壮な最期をとげる作品ばかりでしたが、「鷲は舞い降りた」の成功後は次第に同一主人公がくり返し登場するようにもなりました。晩年はお気に入りのショーン・ディロン一本やりで、かえってつまらなくなりました。

ドスエフスキーの作品について「貧しき人々」「虐げられた人々」をヒューマニズムの時代、「白痴」などを無垢・性善説の時代、「地下生活者の手記」「罪と罰」を魔性・性悪説の時代、「カラマーゾフの兄弟」を精神昇華の時代と言った人がいますが、複雑で多面性を持ったドストエフスキーと違いジャック・ヒギンズはヒューマニズムの世界だけです。ただ、決して安っぽいものでないことは、「死にゆくものへの祈り」(A Prayer For the Dying, 1973)でダ・コスタ神父と対決するマーチン・ファロンは、まさに「罪と罰」ラスコーリニコフの世界に生きていること、彼の心を氷に閉じ込めた悲劇的な事件、さらに最後は神父の姪で盲目のオルガニスト、アナ・ダコスタを助けるための壮絶な死という、命がけのヒューマニズムに貫かれたこの作品をお読み頂ければ分かると思います。


クライブ・カスラー (1931/ - )の環境はジャック・ヒギンズとは反対に、裕福で明るく陽気なアメリカ人の典型です。作品にもその雰囲気は持ち込まれ「美女と名車」に囲まれた主人公ダーク・ピットはジェームズ・ボンドをモデルにしてますが、カスラー自身の趣味がクラシック・カーなので、007が乗るファンタスチックな最新鋭車とは逆に古典的名車のコレクションが自慢です。またカスラーは海洋探検も趣味でして歴史や海洋学にも非常にくわしいので勉強になります。主人公は頑強な外見とは別に、内面はジャック・ヒギンズばりのウェットさです。ジャック・ヒギンズとクライブ・カスラーは、人間の持つ弱さといった面に人一倍敏感で、弱者への思いやりがハンパじゃあないのですね。また、この二人は同一主人公を使った小説では、必ずといっていいほど以前の作品の場面がフラッシュバックで使われます。多分、主人公への思い入れが強いのでしょうけど、007のイアン・フレミングはそんなセンチメンタリズムとは無縁の存在でした。


あくまでもスマートでクール、かっこ良さの典型だったイアン・フレミングと、彼のあとに続く泥くさいカスラーやヒギンズとでは氏素性の格が違うとでもいったことでしょうか? でも、この3人に共通するのは天才的な文章力、個性的で他の追随を許さないstorytellingのうまさです。 今回は省略しましたが更に一世代下のトム・クランシー (1947/ - )にもそれはあてはまります。


▼バックナンバーを読む

■2013年03月01日更新分

■2013年01月05日更新分

■2011年12月02日更新分

■2010年08月01日更新分

■2009年12月05日更新分

■2009年07月01日更新分

■2008年12月01日更新分

■2008年05月01日更新分

■2007年12月06日更新分

■2007年07月09日更新分

■2007年03月01日更新分

■2006年09月20日更新分

 


 
KG HOT NEWS.
circle
copains
KG LINK.